転移性脳腫瘍に対する治療法は、大きく分けてふたつあります。手術と放射線治療です。 これら治療は、組み合わせて行われることが多く、スタートをどの治療から始めるかという選択になります。
1)手術
脳は他の臓器と異なり、固い頭蓋骨に完全に覆われていますので、開頭術という頭蓋骨を開けて脳に到達して腫瘍を摘出します。手術による治療は、①手術に耐えられる体力があり安定している。②腫瘍は脳の表面に近い部分に存在。③重要な脳の組織(運動野、言語野など)(注1)とある程度離れていることが必要です。
手術は全身麻酔下で行われます。手術の間は痛みを感じることはありません。術後頭痛・嘔気など生じることがありますが数日で軽快します。術前後に手術で必要となる薬剤が投与されます。代表的なものは、感染を予防する抗生物質、腫瘍周囲の浮腫(むくみ)をとるためにステロイドという薬剤、また、けいれん発作を予防するために抗けいれん剤です。皮膚を切開する部分は、腫瘍が脳のどこに存在するかによって異なります。多くは毛髪で隠れるように切開線は予定されます。頭髪は、皮膚切開線に沿って一部分のみ毛髪を切りますが、大部分は残すことが可能です。術中より静脈血栓症・肺塞栓症予防のため下肢・足部を圧迫するためのストッキング、ポンピング機器が装着されます。術後、少し違和感がある方がいらっしゃいますが、大切な処置です。離床が進めば外すことが可能となります。術後、皮下に血液がたまらないようにチューブ(ドレーン)が留置されることがありますが、翌日には抜かれます。術後のCTで術後出血がないことを確認します。創傷治癒が順調であれば抜糸前に洗髪は可能です。抜糸は1週間程度で可能となります。術後、局所の再発、新しい病変の有無をMRIなどで経過観察する必要があります。
2)放射線治療
放射線治療には、大きく分けてふたつの治療法があります。ガンマナイフに代表される定位的放射線外科治療と全脳照射です。
①定位的放射線外科治療(ガンマナイフ治療の項目を参照してください)ガンマナイフに代表されるこの治療は、転移性脳腫瘍の治療に大きな変化をもたらせました。ガンマナイフ治療を例に説明します。約200個のコバルトから照射される放射線を1カ所に集中させて、転移巣に1回高線量の放射線を照射する方法です。原理は虫眼鏡で太陽の光を1点に集めて紙を焦がしたことのある方は、思い出していただくと理解しやすいと思います(図1)。治療できる腫瘍の大きさはおおよそ2.5cm程度までとされています。剃毛は不要で、頭部に局所麻酔でフレームを固定し、MRIを撮影して転移巣の位置を決定して正確に放射線を照射します。照射する放射線のエネルギー(辺縁線量)は18-22Gy(グレイ)程度です。治療に必要な時間は、転移巣の大きさ、個数により異なりますが1から2時間程度です。通常2泊3日程度の入院で治療は完了します。治療後は、治療巣の再発、周囲の脳のむくみや新しく出てきた病変をMRIで定期的に調べていきます。約3割の方で、新しい病変に対して再度治療が必要となります。
病変が小さいほど治療効果、つまり腫瘍が消失もしくは大きくならないことが期待されます。副作用として、腫瘍の周囲の脳のむくみが悪化する場合もあります。たいていはステロイド剤の投与で回復が期待できます。照射後長期間が経過した後に照射部位に放射線壊死(注2)が生じる場合があります。
②全脳照射
脳全体に放射線を照射する方法です。ガンマナイフと違い少ない放射線量(2.0-3.0 Gy)を1日1回、2から4週間程度照射します。ガンマナイフと違いフレームで頭部を固定することはなくマスクで固定します。転移数が多い場合、癌性髄膜炎など、脳の中で腫瘤を形成しないタイプの転移巣に選択されます。一部の脳転移を来しやすい癌では予防的に全脳照射を行う場合もあります。
副作用として、急性期に発生する嘔気・嘔吐、脱毛、皮膚炎などがあります。照射後長期間経過した後に生じる放射線壊死があります。